Q&A:主流化するインフラデット

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はじめに

高インフレや金利の高止まり、銀行による融資活動の縮小によって、インフラ関連の借り手の間でプライベート・クレジット・ローンが大幅に拡大しています。一方、投資家はこうした需要に即座に対応し、インフレや市場のボラティリティに対するヘッジとなるカウンター・シクリカルな資産、そして世界経済を形作るメガトレンドを取り込む手段を模索しています。

以下のインタビューでは、イアン・サイムスエリック・ウィトルダーが、プライベート・インフラデットを取り巻くトレンドや追い風、最も活発な業界や地域、そして成長を遂げている本資産クラスへの投資アプローチについて語ります。

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Q&A

Q: 最近のプライベート・インフラデットへの関心の高まりとアロケーションの拡大を後押ししている要因は何でしょうか。

イアン・サイムス: 多くの投資家が、資産クラスとしてのインフラの特徴であるインカム収益、安定性、そしてレジリエンス(リスク耐性)をポートフォリオに取り込める投資先に注目しています。インフラは、必要不可欠なサービスを提供し、参入障壁が高いため、安定したキャッシュフローを確保できる長期資産です。

例えば、あなたがプライベートデットへの投資を検討している投資家で、インフラと他のセクターを比較しているとしましょう。現在の状況を踏まえると、インフラデットにはボラティリティが非常に低く、ダウンサイドを大幅に軽減するという独自の利点があります。一方で、企業向けダイレクト・レンディングは一般的に、インフレや金利上昇の影響を受けやすい傾向にあります。また、プライベート・クレジットは通常マチュリティウォール(満期の壁)に直面し、その時の市場環境に晒されやすい資産クラスですが、インフラデットには同じ返済期限のリスクに対するエクスポージャーが低いという特徴があります。

エリック・ウィトルダー: さらに、投資家が「3つのD」として知られるメガトレンド(デジタル化:Digitalization、脱炭素化: Decarbonization、脱グローバル化: Deglobalization)をポートフォリオに取り込もうとする中、資産クラスとして拡張しつつあるインフラに注目が集まっています。しかし、パブリック市場で狙いを定めたインフラデットに対するエクスポージャーを得ることは困難です。そのため、機関投資家は、このインフラのスーパーサイクルを取り込む手段として、プライベートデットの投資機会を模索しているのです。

過去10年以上にわたり、インフラへの融資は総じて着実かつ大幅に増加しました(図1参照)。そして、プライベート市場でも取引の規模が拡大しています。このような環境では、大規模なインフラ・ファイナンスを提供できる少数の投資家が、投資先を一定程度選べる有利な立場に立つことになります。

図1:インフラデット取引は過去10年で3倍に拡大

(単位:10億ドル)

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出所:IJ Global Data Transactions(2023年6月にアクセス)

Q: インフラの取引が大規模化しているとのことですが、そのトレンドの背景を教えてください。

ウィトルダー: 基本的に、3つのDを推進するためには莫大な資本が必要となるためです(図2参照)。

例えば、かつてデータセンターの建設は3メガワット程度から始まっていました。それが30メガワットになり、今では300メガワットに近づいています。また、以前はデータセンターの開発コストは約5,000万ドルでしたが、現在では10億ドルを超えることがあります。

また、再生可能エネルギー分野では、かつては1ギガワットの開発パイプラインがあると大規模とみなされましたしたが、今では20ギガワットのパイプラインも一般的になっています。この規模の開発には、多大な資本と高い専門知識が必要です。

さらに、多くの発行体は、目標を達成するために実行のスピードと確実性を重視しています。このような環境では、大規模なデットによるソリューションを提供できることが大きな利点となります。

図2:借り手はあらゆるタイプのインフラに対する資金調達ソリューションを求めています

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Q: 近年データ需要とその成長を支えるインフラの需要が急増しています。この分野にはどのような投資機会がありますか。

サイムス: まったくその通りです。私たちは常々、データは世界で最も急速に成長しているコモディティだとお話しています。人工知能(AI)の機能が広く普及した頃には、世界のデータ利用の大半はすでにクラウドに移行していました。そして、AIは非常に計算集約型で電力を多く消費します。例えば、ChatGPTで質問を処理するには、従来のGoogle検索の約10倍の電力が必要です1

クラウドコンピューティングとAIサービスやAIアプリケーションが急増する中、世界のデータ消費が飛躍的に拡大しており、その結果、データの保存と伝送に関わる資産への大規模な投資機会が生まれています。世界経済フォーラムは、2025年までに世界中で一日あたり4,630億ギガバイトのデータが生成されると推定しています。これはネットフリックスで約1,800万年分のHDストリーミングに相当し、約40億台のiPhoneの容量を満たすデータ量に匹敵します。従来、これらの投資はテクノロジー企業や通信会社を含む事業者によって資金提供されていましたが、データセンターや5Gなどのアクティブ設備の更新に伴う資金ニーズが増加していることから、これらの企業は新しい資金調達パートナーを求める動きを強めています。

例えば、クラウドコンピューティングの需要に対応するためには、2026年までにデータセンターの容量拡大に1.3兆ドル以上の設備投資が必要になると予想されています。しかし、その試算にはAIの成長は含まれていません2

Q: 脱炭素化における投資機会を創出している要因は何でしょうか。また、最も魅力的な分野を教えてください。

サイムス: 企業や政府による脱炭素化ソリューションへのニーズが高まる中、当社が特に注目しているのが再生可能エネルギーです。特に、テクノロジー業界と輸送業界からのグリーン電力需要が拡大しています。総じて、エネルギートランジションと送電への年間投資は、2050年までに4倍以上に増やす必要があります(図3参照)。

従来の資金源へのアクセスが難しくなっている中、プライベート・キャピタルを活用することでこの資金ギャップを解消できる可能性があります。実際、M&A、成長や設備投資のニーズ、部分的な資金回収、または資本コストの最適化のための柔軟な資金ソリューションを提供する機会が多く見られます。

図3:ネットゼロ目標を達成するためには年間投資を加速させる必要があります

エネルギートランジションおよび送電網への年間投資額:現状と必要額の比較(単位:兆ドル)

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出所:ブルームバーグNEF「Energy Transition Trends 2024」(2024年1月)。目標はブルームバーグが実施した調査で設定。

ウィトルダー: エネルギートランジションで見過ごされがちな領域の一つに、消費者とコストによって推進される「需要側」の脱炭素化があります。その結果、より多くの企業やコミュニティが、エネルギー効率の向上、エネルギー消費の削減、化石燃料への依存の低減を通じて、消費者の需要に応え、コストを削減しようとしています。

これにより、住宅用エネルギーインフラ、サブメータリング、そして住宅用スマートメータリングにおける投資機会が生まれました。例えば、当社は欧州と北米の両方で、エネルギー効率の高い製品やサービスを提供するプラットフォームに投資しています。これらは、現行の代替手段に比べて消費者に大幅なコスト削減をもたらします。

Q: インフラデットへの投資機会は、3つ目のDである「脱グローバル化」とどのような関わりがありますか。

ウィトルダー: 世界的なサプライチェーンの混乱や最近の地政学的な動向により、政府や企業は、(特にベースロード電力、重要な製造業および物流における)サプライチェーンのレジリエンスを優先するようになりました。

例えば、液化天然ガス(LNG)は引き続き世界のエネルギー安全保障において重要な役割を果たすでしょう。これは、世界的に見て、天然ガスの処理・輸送・流通の重要拠点にインフラが必要になることを意味します。

また、半導体工場などの重要な製造プロセスを国内回帰することへの関心も高まっています。米国と欧州はいずれも、半導体施設の建設を支援するプログラムを発表し、生産体制をアジアから国内に戻すために1,000億ドル以上の予算を投入することを明言しました。

そして最後に、輸送インフラと物流ネットワークも、長期的な需要の増加に対応してレジリエンスを高められるよう進化していかなければなりません。これらの資産やネットワークには、ボトルネックを解消し、処理能力を強化するために多額の資金が必要です。

Q: 電力会社に関してはどのような投資機会がありますか。

ウィトルダー: 地方自治体や国が運営する電力会社は、電力の送配電システムへの需要拡大に対応するため、民営化や新たな資金源の模索といった動きを強めています。送電網には、再生可能エネルギー源からのエネルギーの送配電に対応できる柔軟性を備えていることが必要不可欠です。こうした柔軟性を実現しようとしている民間の電力会社も同様に資金制約の問題に直面する可能性があります。その場合、この分野での拡張プロジェクトに投資実績のある民間の投資家に注目するようになっています。また、スマートメータリングやエネルギー貯蔵などのソリューションによってもたらされる効率性の向上には、短期的に多額の資本が必要であることも、多くの電力会社が認識しています。

サイムス: 地方自治体が脱炭素化目標を達成できるもう一つの方法は、地域エネルギーシステムの活用です。これらの資産は、相互に連結された共通の配電システムを通じて、集中施設から複数の建物に暖房または冷房を提供します。そして、一般的に個々の建物内に設置された暖房装置や冷房装置よりも低コストで信頼性が高いという利点があります。このシステムは、必要不可欠でコスト効率が高いという性質や、燃料コストの転嫁が可能な長期の容量ベースの契約を通じてインフラとしての特性を強く有しており、安定した収益源を生み出します。

Q: 他に検討すべきセクターはありますか。

ウィトルダー: 電力やデータほど活発ではないものの、輸送インフラにおける投資機会も継続的に発生しています。道路、鉄道、海運および物流業界は、ネットワークの容量を拡大し、需要の増加に対応しながら、高品質のサービスを維持しようとしています。

例えば、米国の地方にある中規模輸送資産の多くはかつて家族経営でしたが、ネットワーク全体の相乗効果を強化するために徐々に機関投資家によって統合されつつあります。当社でも、そのようなロールアップ(統合)の機会に資金を提供し、サービスの制度化を支援してきました。

投資家の観点から、長期的な価値とインフレとの典型的な連動性により、十分な短期的流動性が確保されている限り、そのような資産は周期的な交通量の変動に対して耐性がある傾向があります。

サイムス: また、ミッドストリームセクターにおいても引き続き投資機会を見出しています。天然ガスは、間欠性のある再生可能エネルギー発電の成長を支える重要な移行燃料であると同時に、エネルギー安全保障の強化にも寄与することから、民間資本によるソリューションを伴う大規模な投資が必要です。当社の迅速な対応能力を活かし、リターンの増加とエクイティ投資額の低減を模索するスポンサーに対して独自の融資を実施してきています。

Q: ポートフォリオ構築の観点から現在のインフラセクターをどのように評価していますか。

サイムス: 当社は通常、動きが活発なセクターに高い比重を置いています。現在では、無線インフラ、ファイバーネットワーク、データセンターを含むデータや、再生可能エネルギーが該当します。

しかし、私たちはポートフォリオの分散を特に強く意識しています。例えば、全体を俯瞰してデータセクターへの集中が見受けられた場合、さらに詳細に分析し、その資産が各家庭への光ファイバーケーブルの敷設や携帯電話の基地局にどの程度関連しているか、データセンターとの関連はどうか、といった点を検討していきます。その際、リスクが相関しないようにします。

ウィトルダー: 資産ごとに掘り下げた分析も行います。例えば、特定の地域や、特定のサイトに利用料を支払っているオフテイカーに集中していないかを確認します。

このような詳細な分析を行うことで、活発なセクターに注力しつつ、ポートフォリオの分散を維持することができます。

Q: 最後に何か付け加えることはありますか。

サイムス: 投資家として、インフラデット分野におけるストラクチャリングの重要性を考慮すべきだと考えます。コーポレート・クレジットとは違い、インフラ取引ははるかに複雑な傾向があります。有料道路と風力発電所は別物ですので、各資産を詳細に分析し、それに応じてローンを構築しなければなりません。これが、インフラデットがコーポレート・クレジットの景気循環から影響を受けにくい理由の一つです。

ウィトルダー: また、インフラデットを引き受ける際には相当なデューデリジェンスが求められます。貸し手は、各資産の仕組み、契約内容、規制環境、技術面および運営面などを理解する必要があります。しかし、これは競争を制限する要因でもあります。なぜなら、すべての投資会社がこれらのリスクを評価するための組織としての知識や技術的な専門性を有しているわけではないからです。

サイムス: しかし、こうした複雑さこそがインフラデットの魅力であり、適切に対処することでその魅力を最大限に引き出すことができます。そして、このような投資機会は拡大しています。世界全体で必要とされるインフラ投資は、先進国、新興国を問わず膨大な額にのぼります。2040年までに累積で約94兆ドルが必要になると試算されます(図4参照)。

言い換えれば、潜在案件が多く待ち受けているということであり、それらに携わることを心待ちにしています。

図4:現在の投資傾向を上回るインフラの必要投資額

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出所:「Global Infrastructure Outlook」

巻末注:

1. 出所:ゴールドマン・サックス

2. 出所:クレディ・スイス、デローロ

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